烏野高校1年セッターの影山は、ユースの強化合宿で「プレーはだいぶんおりこうさんよな」と言われて悩みます。その後、伊達工業高校との練習試合中に「ここはおりこうさんでいい」とふっきるのですが、アニメを視聴していて、この過程がぴんときませんでした。
(広告)
影山がどこにひっかかって、どこですっきりしたのか、アニメのいち視聴者であるわたしはすっきりしなかったので、漫画を読んでみました。結果すっきりしたのでそこを解説します。
ついでに「おりこうさん」の英訳がとても興味深かったので、そこも紹介します。
「ハイキュー!!」基本的にアニメで楽しんでいます。
今回とりあげた場面では漫画のほうがすっきりわかりやすいという意見になりますが、いうまでもなくアニメには漫画にはない良さが数えきれないほどあります。
漫画とアニメ、どちらも楽しいですし、どちらかの優劣を判断する記事ではありません。
前提として、アニメは第1期から第4期まで視聴済み。
今回は漫画は24~27巻を参考にして、宮侑の「おりこうさん」発言から、影山が完全にあれこれをまとめてふっきるまでを深掘りしています。
英語版はおりこうさんの訳を確認したくて購入。好きな作品の読み比べは楽しくて、英語力アップにもなっておすすめです。
(広告)
「おりこうさん 」に関連する場面 第4期TO THE TOP序盤
インターハイ全国大会の約1か月前のできごと。全日本ユース強化合宿で、影山飛雄は、同じセッターで稲荷崎高校二年の宮侑(みや・あつむ)にこう言われます。
4話 “楽” 漫画24巻p.163 影山と星海の会話に宮が加わって
イメージ
(影山くんは)とげとげしい第一印象やったけど、プレーはだいぶんおりこうさんよな
・・・は?
5話 “空腹” 漫画24巻p.180 影山の回想で
この場面、漫画とアニメとは演出が違うので、それぞれ説明します。
漫画の回想シーン
- 中学時代の試合中:チームメイトの拒絶を感じたときのイメージ “もうお前にはついていかない”
- 及川の言葉「スパイカーが欲しいトスに100%応えているか。‥‥略‥‥理解できないなら、お前は独裁の王様に逆戻りだね」
- 宮侑「プレーはだいぶんおりこうさんよな」
👆漫画のこの回想シーンから読み取った影山の心中
- 過去の独裁的なプレー態度は拒絶される←トラウマ
- 現在のプレー態度はスパイカーが打ちやすいトスをめざす
- 「おりこうさん」から現在のプレー態度も完璧でないかも?
アニメの回想シーン
- 中学時代の試合中:チームメイトの拒絶を感じたときのイメージ “もうお前にはついていかない”
- 及川の言葉「スパイカーが欲しいトスに100%応えているか。‥‥略‥‥理解できないなら、お前は独裁の王様に逆戻りだね」
- コーチたちの会話※
- 宮侑「プレーはだいぶんおりこうさんよな」
中学時代、噂だけで実績で名前があがらなかった天才は影山のことかな?
(影山を映してコーチの声で)天才とはもっとも完璧からもっとも遠い存在だと思う。
影山の心情を見失ったのはここだった
漫画では連続していた回想に、アニメでは途中でコーチの会話が挿入され、おりこうさん発言の回想は分断されます。
漫画も②までは同じ流れ。現在のプレー態度は影山が成長した姿だというのが影山、チームメイト、視聴者の共通認識です。そして漫画では直後におりこうさんの回想となり、影山も読者も現在がベストか?と疑問を持ちます。
アニメでは、②で画面がかわってコーチの会話となり、②の現在のプレー態度は成長した姿と認識したまま放置される。そこで③の「影山は天才か、天才は完璧からもっとも遠い存在か」という視点も次元もちがう話で、視聴者の意識は影山の心理から引き離されました。その後の④おりこうさんの回想は唐突です。
👆アニメのこの回想シーンから読み取った影山の心中
- 過去の独裁的なプレー態度は拒絶される←トラウマ
- 現在のプレー態度はスパイカーが打ちやすいトスをめざす
- コーチの会話「影山は天才。天才は完璧からもっとも遠い存在」
- 「おりこうさん」と言った宮の意図は?
- ④「おりこうさん」を影山がどう受け止めたかではなく、そう伝えた宮の意図や性格に注目してしまった。
- 本来の流れは宮の意図がどうあれ、影山は自分のプレー態度を悩み、試行する
- わたしは宮の意図?を読み解こうと読み進めたため、物語の流れとはズレた
もやもやした理由、正体が判明したので、考察もここで終了してもいいのですが、せっかくなので続けます。
5話 漫画25巻p.57 強化合宿最終日、練習後のストレッチで
イメージ
(影山くんは)スパイカーのほうが向いてるのと違う?セッターのときは小難しい顔をしとったから
のつもり
それはあなたのおりこうさん発言のせいだと思う
おりこうさんってどういう意味ですか?
イメージ
そのまんまの意味。まじめで素直でいい子やねって。
ここでも宮の意図を深読みしようとしてました。不要な深読みです。
6話”高揚”漫画25巻p.109 合宿後、悩みごとはないかと鵜飼コーチに問われて
おりこうさんってどういう意味だと思いますか?
褒められてはないと思うんですが
(さすがユース なかなかの曲者が居やがるな)‥略‥スパイカーが打ちやすい異常に最高のトスはない‥略‥そこだけは迷う必要はねえよ
ここまでの影山の変化の方向は正しかったはず。それでもおりこうさんはひっかかる。
6話 漫画25巻p.160 伊達工業高校との練習試合
旭や田中のスパイクが思うように決まらず、1セット失ったあとで
俺は良いトス上げてます!! もっと決めてください!!!
言った直後に影山は、中学時代の独裁と呼ばれたころの拒絶を思い出してハッとする。
主張し押しつければ拒絶されるという恐怖
月島:久々に王様節じゃない?
影山はとっさに謝罪しそうになるが、日向にさえぎられる。
納得しなきゃ俺は言うこと聞かない
王様かどうかは関係ない
スパイカーが打ちやすい以上に最高のトスはない。それはコミュニケーションで探っていくもの。でも、けんかしないってことじゃねえと思うぞ
ここでもう一度影山の回想
- 始めのころ、旭にトスの要望を尋ねたとき
- 不満そうな月島にトスの要望を尋ねたとき
- ユース合宿でスパイカーの要望を聞き入れて実行したときのこと
- 宮の「おりこうさんよな」発言
影山はここで一方的に相手の要望を聞き入れるだけがコミュニケーションじゃないと気づいた!
旭は伊達工業相手に、ブロックのタイミングをずらしてスパイクを打つ練習中、田中はきわきわストレート狙い(の練習)で、今日はまだ失敗するから許せと言う。影山の応えは
場合によります
独裁的に主張を押し付けるのではなく、おりこうさんになって自分の主張を抑えてすべての要望に応えるのでもなく、(けんかして)互いに主張しあってよりよい結果をめざす。
7話”返還” 25巻最終頁から26巻冒頭‥‥ここはオリコウサンでいい
影山はあえて上に外したトスで月島の打点を引っぱりあげる。
セッターは支配者っぽくて一番かっこいいだろう!
(と言っていた影山の本質は変わらない)
どんなに良いコぶろうとしても、お前の本質は王様なのだ。
観念するがいい。
新「コート上の王様」誕生だァー!
影山は自身のコミュニケーションに難ありと認め、それを自分に許したうえで
最高のセッターになるよう努力します
お前は昔からそうだと言われる。自身が受け入れられていることを実感
‥‥‥ここはオリコウサンで良い
チームのために最高のセッターになる努力をすることは真面目に素直にいい子に取り組めばいい。
一段成長し、気持ちもふっきった影山の姿に、こちらもすっきりしました。
ケンカつながり 同時期に金田一もふっきれましたね
中学時代の影山のトラウマ、同じようにひきずっていた金田一。
表裏です。
拒絶された側と、拒絶した側。
どちらも同じく傷を負っていました。
金田一がふっきれたのは疑似ユース合宿の最終日。日向の言葉です。
試合中に影山のトスを拒絶したことを、日向はケンカと言いました。納得できなくてケンカするのは普通だ。だから影山も大丈夫だ。と。
作中、内容の先読みとなりますが、影山はだいぶ時間をかけて、向上のためのチームメイトと”けんか”は悪いことではないと気づきます。金田一は(‥‥‥メインキャラクターじゃないから)日向の一言で気づいたようです。
中学の試合のあれを、拒絶でなくケンカにすることができていたら、影山と金田一はいい相棒になっていたのかもしれません。ケンカできなかったふたりは、別々の場所にいます。別々ですがバレーボールを続けて、それぞれの環境でふたりとも成長しています。金田一も繊細でいい子そうです。
これはアニメでも感じとれてはいましたが、漫画では文字で明確になります。
やっぱり漫画もいいなぁ。アニメは4期までしかないので、続きを知るには漫画を読むしかないのですよねぇ。
まとめ
- 中学時代、メンバーに拒絶された影山は自分が独善的すぎると自覚した。
- 以降、スパイカーが打ちやすいトスをあげることをめざす。
- スパイカーが打ちやすいトス=スパイカーを活かすトス‥‥‥。
- おりこうさんとは!!
- ただの独善ではなく、スパイカーの力を引き上げるトス
- スパイカーの潜在能力まで引き出すトス=スパイカーを活かすトス!
上記はプレー中のこと。チーム内の人間関係では「おりこうさんでいい」と納得した。
おまけ おりこうさんの英語訳 “goody two-shoes”
ニュアンスも、日・英ほぼ同じととらえていいようです。
「おりこうさん」と言われた影山は褒められてはいないと感じましたが、幼いこどもにむかって「おりこうさんだねぇ」と言えばいい意味です。
“goody two-shoes”も同じです。
語源はイギリスの子どもむけの寓話
寓話とは、道徳教育を目的に作られた子ども向けの物語です。
- 勉強をがんばったらいいことがある
- 行儀よくしていたら幸せになれる
- 悪いことをしたら悪い報いがある
👆みたいな、物語なのにワクワクしない。おりこうさんは喜びそうな退屈な物語です。
語源の物語”The History of Little Goody Two-shoes”とは
1765年にJohn Newberyによって書かれた子供向け、感謝の気持ち、優しさ、慈善心を持つことの美徳を説いたものです。
主人公は貧しい孤児の女の子マージェリー・ミーンウェル(Margery Meanwell)。マージェリーは靴を片方だけ、ひとつしか持っていませんでした。あるとき親切な紳士に新しい靴をもらいます。靴は両足そろって一足と数えることも知りません。マージェリーは「靴がふたつ」”Two-Shoes”と、喜びました。このときからマージェリーは「小さないい子の靴ふたつちゃん」”Little goody two-shoes”と呼ばれるようになります。
マージェリーはその後、裕福な家族に引き取られ、読み書きや算数を学びます。彼女は優しく、慈悲深い人物になり、常にひとの役に立とうと心がけて幸せに暮らしました。
“goody two-shoes” 辞書の意味
- 素直でまじめでいい子
- いい子ぶっている子、きどった優等生、善人ぶりが鼻につく人
ほとんどは②の意味で使われるようです。
マージェリーはお手本の、どこにも欠点のない立派な女性です。いい子すぎるのが胡散臭いと感じるから、かもしれません。
以下は辞書や文献などには当たれませんでしたが、”a pair of shoes”という正しい言い方を知らず、まちがった言葉遣いをそのままニックネームにされてしまうって、現代の感覚ではイジメっぽくないですか?
- モデルとなった人物がいい子すぎて反感を買う
- 幼く無知である相手でないと成立しない誉め言葉
背景も無理なく理解できますね。
まとめ ハイキュー!!やっぱりおもしろい
今回は影山を取りあげましたが、メインキャラクターの日向、影山、同学年の山口、月島はいずれも高校一年生。誰をとっても欠点を持っていて、心身ともにおおいに成長中。ほかのスポーツ漫画、アニメも同様でしょうけど、そこがスポーツ漫画の良さですよね。
そしてアニメが見せてくれるボールや選手の動きもやっぱり楽しいです。アニメは4期までなのかなぁ。ぜひ続けてほしいなぁ。切望しています。